不動産屋Aに連れてこられた物件は、幼稚園の隣の建売住宅だった。土地が小さく、駐車場がビルトインガレージのようになっていて、リビングが無く4DKだった。
がインターネットで格安物件を探してきた。不動産屋に連絡してその物件を見に行くのが筋だが、妻は、直接その物件を見たいという。
疲れて仕事から帰ってきた後の外出は、地獄だった。なぜならその物件の正確な場所がわからないからだ。
不動産屋「A建物」の紹介で見た物件は、F市の4DK2950万円の建売住宅だった。駐車場には、工務店の人が二人、立てられた売り出し中の旗の隣に椅子を並べて座っていた。A建物のHさんは工務店の人と簡単な挨拶をして、私達を家の中に案内した。この家の駐車場はビルトインガレージ風になっている。つまり駐車場の上に部屋がある。土地を有効利用しているわけだが、この家の場合リビングがあるべきとこが駐車場になっているともいえた。つまりリビングがない。
中を見て回る。私も妻も築20年経過した実家の家に長く住んだあと、みすぼらしいアパートで生活しているので、技術が進歩した現代の家に感心せずにはいられない。簡単に開閉できるシャッター式の雨戸、段差の無い浴室、乾燥機能つきの全自動ユニットバス。トイレにはウォシュレットがついている。ダイニングには照明とシーリングファンがとりつけられている。シーリングファンというのはその名の通り天井のプロペラであり、冷暖房の効率を上げる働きがある。立地的にもF市の中心からは離れるものの急行停車駅から平地で徒歩10分の距離、閑静な住宅街で申し分なかった。
しかしながらこの家は既に完成後4ヶ月が過ぎていた。売れない理由は、横が幼稚園であることに間違いない。今日は土曜日である。幼稚園には誰もいない。あたりは静寂に包まれている。しかし平日ともなればどのくらいうるさいかは想像できよう。私は会社に行くので問題ないが、妻のほうは有り難くないにちがいない。この家に住むことは考えられなかった。リビングもないのも大きなマイナスだ。去り際に工務店の人が「価格もさがりましたので、どうぞよろしくおねがいします」と頭をさげた。こういう人達は、家が売れないと夜も眠れない思いなのだろうか?その点は、仲介だけをしている不動産屋はリスクがないのでよいのかもしれない。しかしHさんは最近は大手も仲介に手を出して商売がしにくくなったと嘆いていた。さらに別の不動産屋から後で聞いたのだが、A建物は支店長と事務職以外はすべて歩合制だそうだ。世の中甘くない。
<データ> 間取り:4DK
価格:2950万円
駅:徒歩15分
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